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東京高等裁判所 昭和29年(ラ)266号 決定

抗告人 株式会社塚本織物工場

主文

原決定を取り消す。

本件を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

抗告人が昭和二十九年二月二十六日東京地方裁判所八王子支部に対し会社更生手続開始の申立をしたところ同裁判所は同年六月七日抗告人は結局会社更生法第三十八条第五号の更生の見込がない場合に該当するものと認めて、右申立を棄却したことは記録上明らかである。抗告人会社が昭和二十五年九月の設立にかかり資本金二百万円株式の総数四千株一株の金額五百円全額払込済であつてその申立当時は代表取締役塚本元市以下事務系統職員四名工員三十五名で所有織機二十台及び借用織機十二台をもつて各種織物の製造販売をして来たものであること、昭和二十九年一月三十一日現在における資産の状況は流動資産固定資産投資金等を合計して二千五百五十八万円余、同日現在における負債の合計が三千五百四十八万円余で結局一千万円前後の債務超過となつていることは抗告人がその当初の申立において自認するところであり、かつ記録中の商業登記簿謄本、定款、貸借対照表並びに附属書類、原審における調査委員意見書等によつておうむねこれを認めることができる。そして昭和二十八年九月一日から昭和二十九年一月三十一日までの五カ月間に抗告人が支払つた利息割引料等は合計百六十八万円余にのぼり、前記の債務はいずれも弁済期にあつて、抗告人は右のような多額の利息等を支払いながら書換をし、また損害金を支払いながら弁済期を延期している状況で、これらの利息金等はその売上利益を上廻る状態であること、また記録中の損益計算書、抗告人名義の経過説明書、前記意見書等によつてこれを肯認し得べきものである。このような事情は抗告人が会社更生法第三十条第一項にいう事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができない場合であると認めてさしつかえはない。

よつて抗告人がはたして同法第三十八条第五号にいう更生の見込がないかどうかについて検討する。

(一)  原審における前記調査委員の意見書には、抗告人会社はその設立当時資本金二百万円に対し固定資産四百三万余円で、その半額は他人資本すなわち短期負債によつてまかなうという企業財務上の不健全を冒し、そのための支払利息割引料等の割合が会社経営中驚くべき多額を占め、これが今日の窮境の根本原因の一をなすとし、その業績は昭和二十五年九月設立以来欠損を続け昭和二十八年八月までの欠損合計は一千百八十余万円に上り、現に前記のような債務超過を見、これに市況の不振と金融の困難とが加わり現在ほとんど操業停止の状態にあり、とうてい更生の見込がないとして、きわめて非観的な見おとしが記載されているけれども、それでも将来抗告人会社の持株及び代表取締役その他の個人財産一切を提供すればなお更生の余地がないこともない旨の意見が附加されているのであつて、この条件いかんによつては抗告人会社に絶対に更生の見込がないと断じ得ないことをうかがうことができる。

(二)  抗告人会社に対する大口債権者である木下繊維株式会社をはじめ地元の債権者数名は抗告人会社に対する更生手続の開始に強く反対しているが、井上繁市外数名の債権者は更生手続開始を望んでおり、その余の債権者は必ずしも態度を明らかにしていないことは記録上これをうかがい得るところであり、更生計画案のいかんによつては必ずしも債権者の動向は予知しがたいとしなければならないから、大口債権者が現在更生手続の開始に反対であるとの一事によつて直ちに更生の見込がないとするには当らず、仮りにそのため手続を開始した後更生計画案に対する法定の必要決議が得られないとすればそれは更生手続廃止の原因となるだけであり、今の段階で更生の見込の有無の判断にこれを加えるのは相当でない。

(三)  抗告人会社代表取締役である塚本元市はその所有の土地家屋等私財一切を会社更生のために提供する決意であることは同人の上申書によつてこれを認めるべく、ただ従来同人がこれが提供を明白にしなかつたことが一部債権者を刺戟したのは、これら債権者が無条件で私財の提供を求めたのに対し、塚本は企業解体を前提としたのでは応じ得ないとしたまでであることまた右上申書によつてうかがい得るところであつて、これらの私財にはもとより現に担保権の設定のあることは記録上推認し得るけれども、ともかくこれが会社更正のため提供されれば一の有力な資金ないし信用獲得の手段となるべきことは否定し得ない。

(四)  当審において嘱託した東京商工会議所の鑑定の結果は抗告人会社の営業品目である絹、人絹織物等の現在及び将来の需給、一般市況の見とおし、抗告人会社の現存設備、これによる稼動能力、その収益率、等各般の事項を吟味した上「抗告人会社はその全資産及び会社代表取締役塚本元市、その実弟塚本善次郎らの全資産を会社に提出し、かつ今後五年以上を順調に経営した場合には現在の債務の返却を完了し、更生でき得る」としているのであつて、この鑑定の結果は右に明らかなように二、三の前提にもとずくものではあるが、抗告人会社がその資産の全部をもつて会社の更生にあてるべきことは事の性質上当然であり、塚本元市がその全私財を提供する旨言明していることは前記のとおりであつて、今後経済界の動向はもとより的確な予測を許さぬところではあるけれども、それでも本件申立当時よりは有利に転向しつつあるものというべきであつて、企業継続ときまつたあかつきにその会社経営が従来に比して一段と合理的になされるべきことはこれを期待し得るものというべきであるから、これによつて抗告人会社に更生の見込あるものとするに足りる。

以上のとおりであつて、これを要するに抗告人会社は今日まだ直ちに更生の見込がないものと断定し得ないものというべきである。従つてこれを更生の見込なしとして抗告人会社の本件更生手続開始の申立を棄却した原決定は結局において失当というべきであるからこれを取り消すべきものである。そしてさらに原決定以後の諸般の事情をあわせ検討しかつその他の要件を審理して本件更生手続開始の申立を認容すべきかどうかについて判断し、これを認容すべしとするときはさらにその後の手続をする必要があるから、当裁判所は会社更生法第八条民事訴訟法第四百十四条第三百八十九条を適用して本件を原審東京地方裁判所に差し戻す(同裁判所がこれを本庁において処理するか、八王子支部において処理するかは同裁判所の内部的事務分配の問題であり、当裁判所はこれを指定しない)。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

抗告の趣旨

原決定は之を取消す

抗告人からなしたる会社更生手続開始申立事件につき会社更生手続を開始するとの決定を求めます

抗告の理由

第一、原決定の理由となりたる並木俊守、榎戸米吉の調査意見書の記載について

第一の企業の歴史についての説明は大体記載の通りであつて個人塚本元市が若くして如何に八王子業界有数の事業家であるかが充分理解出来る処であり同人は昭和廿四年当時に於てその所得額は業界中極めて高額であつたのである

処が昭和廿五年上期に於ける製品及手持原糸の暴落により事業の永続性を考慮し株式会社塚本織物工場を設立するに至つたのである

第二の会社設立の状況についての記載があるか之は幾多誤つた観察が記載されて居る

即ち資本金弐百万円に対し固定資産が四百参万七千余円であつて当会社は当初より固定資産の半分が他人資本によつてまかなはれて居り短期負債にて構築する企業財務の不健全を敢て冒して居ると主張して居る

然し乍ら設立当時の貸借対照表を冷静に観察して見ると固定資産が資本金の倍額たることは争ないかその他人資本といふのは貸方の借入金八拾七万参百八拾九円の復興金融公庫からの長期借入金及未払金参百参拾弐万四千弐拾六円九拾壱銭の一部が之に当てられて居るに過ぎない決して短期負債によつて構築されたものでない

貸方の短期負債とみるべき金参百六拾八万壱千七百参拾円の支払手形は借方に記載の商品原材料四百八拾参万四千八百参拾五円拾銭の裏付の債務であつて何等事業上憂ふべきものではなく固定資産が資本金の倍額となることが不健全なりや否やは貸方及借方の金額の全体の比率から判断すべきであつて寧ろ昭和廿五年当時の通貨の状況から考へると比較的良好と認めざるを得ない、調査意見書が単的に資本金弐百万円に対し設立当時の負債が約七百八拾万円として如何にも不健全なるが如く揚言して居るか之は借方の会社の商品原材料、預金等の資産に目を覆ふた暴言と言はさるを得ない

なを設立当時に就て取得したる機械類の評価か適正であるか否かは別として云々と如何にも不当評価なるが如く含蓄ある言辞を用ひて居るかその当時什器備品中、電話二本が時価一本八万円の処弐万円に評価してあり他の什器も之に準じて安く評価されて居るのである 之は塚本個人が会社に対する財産の譲渡所得を徴収せられる関係上安く評価したのであつて充分理由のあることである

第三業務状況の記載についても調査員は誤つた観察より寧ろ悪意の観察をして居る 個人会社としての色彩のあることは争はれないが個人会社となると社長の独裁的な行動は株式会社塚本織物工場に限つたことではない 如何なる会社もある程度までは止むを得ない 調査員は個人会社の悪い面のみをとらへて誇大に述べて居る融通手形の濫発と言ふて居るが今日の業界に於て或程度融通手形が各会社共振出されて居ることは事実であつて八王子業界のみならず他の会社に於ても殆んど斯様なことはあることである

濫発といふ言葉を以てする程振出して居らない

第四財産の状況についての記載であるが之も亦誤つて居る

第一期より第三期までの欠損状況を数字で掲げて居るがその記載によつても明なる如く第二期は第一期より第三期は第二期よりその欠損の額が激減して居るのである

第三期に於ける利益金は金弐百拾七万四千弐百五拾弐円壱銭に対しその期に於ける利息の支払のみにて弐百九拾五万壱千七百拾六円となつた為欠損を出すに至つたのである即ち業務そのものにより利益はあるが利息等の支払の為欠損を出すの余儀なきに至つたのであつて此の債権の一時棚上又は切捨があるならば必ずや更生し得るものと認められる

調査員が昭和廿九年一月三十一日の貸借対照表による債務超過を金九百八拾七万六千弐百拾円とみて之に貸倒見込等の数字を修正して算出した数字なる金千百四万参千弐百四拾七円は正当である 然し乍ら企業解体を前提として固定資産を金八拾七万八千六百五拾円と捨値の評価をなし貸借対照表の固定資産評価額四百弐拾五万九千百弐拾壱円からの差額金参百参拾八万四百八拾壱円を算出し之を前記債務超過額に合算し債務超過額を千四百四拾弐万参千七百弐拾八円にしたのは明に作為的な悪意の観察である固定資産の評価額が四百弐拾五万九千百弐拾壱円は不動産の評価に常識ある者か現場に臨み之を観察するならば容易に肯定し得る処である 寧ろ現在の不動産の時価を以て再評価するならば債務超過は消失するといふても過言でない、殊に帳簿が整備されてないとか社長個人の支出を会社資産で支払つて居るとかいふが如きに至つては申立人を漫罵するものであつて何れも説明し得る処であつて為にせんとする悪意の意見である

仮に更生手続が開始されても現在のデフレ政策下に就ては到底金融の道は開かれず殊に申立会社に対する八王子機業界の感情よりして組合等が協力的態度にでることは考へられないと断定して居るが現在のデフレ政策は永久的に続くものではない、事業上経済界の変動は常にあることであつて一時の政府の政策の為に事業更正の道なしと断するは早計である

金融機関にしても本申立に対して何等の意思表示をして居らない、債権の柵上等によつて収支のバランスが合理的ならば必ずや適当なる援助があるものと確信する

八王子機業界の感情といふも債権者の一人土屋商店、社長土屋留次郎氏が八王子機業界の元老であり同氏が本申立に対し感情的に反対し他の一部の者が之に同調して居るに過ぎず調査員が八王子機業界の感情といふは反対債権者のみを調査の対象となしたからに外ならない(抗疏第五号)調査員は操業停止の状態にあると述べて居るが操業は充分継続し得る処であつて現に操業中である 調査員は日曜祭日の日に申立会社に出張したので休業の日を操業停止と錯覚して居るに過ぎない、

第五更生の方策についての記載についてであるが調査員は債権者全部の同意が得られるかどうか疑問であるし将来収益を挙げて現在以上に債権者に弁済し得るか否かも疑問であると言ふて居るが之は債権者全部の動向を把握して居らず又申立会社の事業を充分理解して居らぬからに外ならない申立会社は、

(1)  バンサンヂージヤカードの設備がありその技術も体験も充分で美多摩織物は八王子に於ても優秀である

(2)  先々代塚三織物の名声は女物銘仙界では第一人者であつてその伝統を引継いてゐる

(3)  ネクタイ、傘地、マフラーの高級雑貨は優秀である

の如き特徴があり収益はあげ得られる、調査員は申立会社の解散は社会的に損失がないと言ふが各機業地に於ける中小企業を冷静に見るならば何れも個人会社であつて我が国現在の経済機構の中心をなして居ると判断される中小企業の解散は果して社会的に損失なしと断ずる事が適当であらうか

只更生の見込あるかどうかを感情を交へず冷静に判断しその何れかに決定すべきものと思ふ

調査員は塚本元市は有限責任制度の蔭にかくれて責任を回避すると断定するが決して無限責任を回避するものでない 現に会社債権者の為個人所有の宅地五一八坪家屋四十五坪時価金壱千壱百万位を提供し債権者土屋商店その他の為に抵当権を設定して居る位である

調査員は将来申立会社の持株及個人財産の一切を債権者に提供して債権者の管理処分に委ねるといふ意味に於てならば格別云々と述べて居るが元来塚本元市個人は会社更生の為ならば個人財産の全部を提供するといふて居り又その決意である(抗疏第一号証第二参照)

只債権者の一部が現在の債務の弁済の為に個人財産を全部提供せよといふので之に応せられぬ丈のことであつて此の点調査員が誤解して居ると謂はさるを得ないのであつて債権者全部の意嚮を把握せす当初から結論を出して居り反対債権者の意嚮のみを意見書に全債権者の意嚮なる如く記載して居るのは極めて失当と謂はさるを得ない

第二、並木榎戸両調査員の行動

並木氏は東京第一弁護士会所属の弁護士であり三多摩特に青梅地方を地盤とする並木代議士の甥であり地方的事情殊に地方有力者の意嚮に反対し得ない立場にある

榎戸氏は青梅市居住青梅信用金庫の専務理事であり会社更生法が議会通過の際強く反対した金融機関の関係者であり八王子市在住の有力数氏と眤懇の間柄である

右の如き関係であり調査員は二人であるが実は一人であると同様である並木氏は五月三日、五日、九日、と三回に亘り調査に参り榎戸氏は五月九日一度参つたに過ぎない

而して並木氏は本申立が更生開始決定なるが如き言辞を用ひて調査に従事し塚本元市に対し更生決定にならずに破産になると斯様に極めて安く処分せざるを得ないと言ふ意味で固定資産を安く評価して見ろと命し放外の安値で評価せしめこれを調査意見書第四の財産の状況に於ての項目に申立会社の固有財産に対する不当評価の材料に供した疑がある(抗疏第一号証第六参照)

殊に両調査員共反対債権者のみを歴訪してその意見をたたいたのみにて賛成なる債権者の意見を全然調査せず一部反対債権者或は感情的に塚本元市を排斥するものの言動に乗せられた疑が充分である

従つて以上の如き偏頗の疑ある調査員の意見でありその意見の内容については前示第一反駁の如き事情にあるのであつて原決定がかかる調査意見をうのみにし措信したのは失当と謂はざるを得ない

第三、債権者株式会社土屋商店等の上申書

原決定は調査員の意見書の外に債権者の内の一部の者の上申書を決定の資料にして居る

然るに上申書署名の債権者を仔細に検討すると右署名人の中長田幹子は不本意ながら債権者木下今蔵の使用人の強要により署名し(抗疏第四号証参照)

三森忠雄は本人が不在中本人の娘に対し木下今蔵の使用人が捺印せしめ(抗疏第六号証参照)

八王子商工協同組合に於ては申立会社社長塚本元市、吉田稔等は組合の役員であるが役員会開催の事実なく木下が役員会の意嚮を確めずに署名させたものの如く(抗疏第一号証)である署名債権者の

織物協同組合 百参拾万八千円

八王子商工協組 六万壱千七百四拾弐円

林武商店 百拾八万参千参拾六円

鈴木染物工場 弐拾万九千七百円

渋谷商店 百拾六万七千参拾八円

土屋商店 弐拾七万参千五百四拾四円

栗原甚太郎 六千弐百参拾八円

竹内利三郎 六拾弐万参千六百円

木下繊維株式会社 参百五拾弐万四千弐百八拾壱円

長田染色工場 弐万壱千参百四拾六円

石渡加工場 弐拾四万参千壱百九拾円

の合計額八百八拾弐万六千七百六拾八円となりこの内上申書の署名が真意でないもの又は違法と認められるもの八王子商工協同組合、三森忠雄、長田染色、竹内利三郎等を除くと七百九拾五万参百八拾円であつて之に対し会社更生による操業継続を希望する債権者は

立野捺染工場 拾八万壱千四百参拾弐円

竹之内機料店 壱万参千六百弐拾八円

小蔦製紋所 五万参千七百九拾円

野本整理工場 五万九千弐百弐拾五円

後藤商店 壱万弐千弐百弐拾八円

小坂貢 弐拾五万参千八百八拾六円

井上正二 拾五万五千五百八拾円

小柳亀吉 拾万円

関沢織物工場 五百六拾壱万五千七百五拾弐円

丸永株式会社 四百八拾壱万弍千弐拾参円

井上繁市 七拾参万五千円

田中撚糸工場 六千弐百五拾円

佐藤撚糸工場 八千五百円

向山商店 五拾万八千弐百弐拾七円

青木材木店 八千拾円

坂本撚糸工場 参万六千七百八拾四円

関戸正一 参千参拾円

串田織物工場 四千円

小池定義 弐拾万円

石川機械工場 六万七千五百壱円

本間染色工場 拾弍万六千五百七拾八円

塚本善次郎 弐拾壱万五千円

塚本元市 百参拾九万八百参拾七円

の丸永株式会社以下二十二名にてその債権総額は壱千四百五拾五万六千二百六拾壱円となり又八百八拾万九千四百六拾七円については賛否発表についての他の圧力の加はることを憂慮し意思表示をさけて居るのである

之より債権者が会社更生開始申立を喜ぶ筈がない、通常の状態に於て返済を受け得ることを期待するのは人情の常である 然し斯る会社の不況の際には会社更生開始によつて漸次に返済を受け様と諦めるのも又止むを得ない処である

之を更生絶対反対を叫ぶ債権者は極く一部の債権者であつて他の一部の債権者が之に唱和を強ひられて原決定に援用の如き上申書を提出したに過ぎない

恐らく原決定に際し原審裁判官は八王子の一部の声を過大に考へたものと思料せられる

殊に八王子に於ける一部の債権者は申立会社を織物組合から除名しようと策動し(抗疏第三号証参照)或は仲買商に働きかけて申立会社からの製品の不買同盟をなさしめたり(抗疏第二号証参照)更に又八王子自治体警察を動かしこの更生申立の審理中に申立会社の社長塚本元市に対し逮捕状を発布せしめんとしたことも三回に及び理解ある判事の拒否に遭ひ発布とならず只申立会社の帳簿に対しては家宅捜索令状によつて捜索したことがあるのである

斯様な一部の債権者の防害は寧ろ却つて一部の債権者の同情を買ひつつある現況である(抗疏第一号証ノ五参照)

第四、原決定の理由について

原決定は設立当時の昭和廿五年九月より昭和廿八年八月迄の間に合計壱千百八拾四万四千参百六拾六円の欠損金を出し資本金の約六倍に達すと言ふが資本金の弐百万自体が今日の経済状況から判断すれば少額にすぎ欠損が約六倍となつたとしても何等異とするに足らぬ昭和廿九年一月卅一日現在の貸借対照表による資産の状況を見るならば之は資本金の十倍以上に達して居ることが明である

又申立人会社の製品の販路を憂るが之は技術の優秀と販路を八王子市以外に求めるならば何等憂ふるに足らない、債権者の意嚮については既に前示第三に詳述した通りであり経済界の状況等は一時的な現象であつて之を以て会社更生不能の一原因と見るべきではない

第五、結論

之を要するに調査員の意見書は公平を欠き一部悪意に満ちた意見を述べて居り之を決定の資料とするのは極めて失当である又債権者の上申書も真意にあらざるものあるのであつて原決定は不充分なる調査によつて更生の見込あるものを更生の見込なしと速断したので不当である

少くとも債権者の意嚮といふものを決定の資料となさんとするならば各債権者の意嚮その金額等につき更に詳細なる調査を必要とするものと思料する

申立会社は会社更生試案を債権者審訊の席上述べたことあり債権者は之のみを捕へて更生不能と主張するが債権の柵上あり債権の一部免除あり、役員の変更あり(例へば債権者の一部を役員とする)(抗疏第一号証ノ一参証)

その更生方法は多種多様である

本件の如き更生事件を八王子支部に提起すること自体判事の不慣れに加へて一部の声に支配され勝の都市の関係上不適当であつたと思ふ

貴庁に於て充分御審査の上原決定を取消し会社更生開始の決定をせられ度いのであります

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